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zoom RSS 恋愛物語〜短篇集〜

<<   作成日時 : 2009/04/09 22:50   >>

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おまけLS
01 相反する二つのもの
  胡桃柚葉(くるみ ゆうは)/祈楯佑都(きだて ゆうと)


 やめて。見せないで。お願いだから思い出させないで……。嫌なの。見たくないの。思い出したくないの。怖くなるから。人を好きになれないから。だから、忘れさせてよ。思い出させないでよ。約束したの。アイツと約束したから! だから、だから! 素直に、忘れさせて……。私はもう、アイツを望まないの。アイツも私を望まないの。

「いやぁぁぁぁぁぁ!」
 私はガバッと起き上がる。
「っはぁ、はぁ、はぁ……夢、か……」
 何度この夢を見ただろう。見たくないのに、何度も何度も見てしまう。
 外からは、カーテン越しに光が射し込んできている。きっともう朝なんだろう。
 私はベッドからおり、お世辞にも綺麗とは言い難いだろう部屋を出て、キッチンへ向かう。なにか飲み物を求めて。
「どうしたら、いいんだろ……」
 私は呟きながら、冷蔵庫を開けて取り出したお茶を、コップに注ぐ。お茶を冷蔵庫に戻すと、一気にそのお茶を飲み干した。シンクの中にコップを置くと、私はずるずるとその場に座り込んで俯く。
「もうやだな……」
 私の呟きは、私にしか届かずに空気の中に消えていった。
 私の頬に一筋の涙が伝う。その一筋の涙は次々と溢れてきて、私の頬を濡らす。
「ひっく、ゆう、と……私、っく、どうしたらいいの……?」
 あの日から、どれだけの涙を流したのだろう。佑都がいなくなってから、もう六年という長い月日が流れた。それなのにも関わらず、私の涙は枯れることを知らない。いつまでも未練たらしく涙が出てくる。
 佑都は私の恋人だった。だけどある日突然、私に一言だけ言葉を残して私のもとを去ってしまった。
 そう、佑都がいなくなったのは、六年前の今日。九月十七日のこと。

 その日私は、いつもより早く目が覚めた。ベッドから身体を起こすと、何故だか寒気がして。嫌な予感が、私の頭をよぎった。
 今何時だろうとか、まだ寝たいなとかそんな考えは一切なくて、郵便受けになにか届いているような、そんな感じがして郵便受けへ私は行く。郵便受けを開けてみると、其処には一通の手紙。それも胡桃柚葉(くるみ ゆうは)、私宛て。送り主は……祈楯佑都(きだて ゆうと)。私はその名前を見た瞬間、家に飛び込み、部屋へ直行した。
 部屋に入り、扉に鍵をかけると、私は扉にもたれかかる。少し深呼吸をしてから、ゆっくりと封を開けた。

胡桃柚葉様
 突然手紙なんて出して悪ィ。きっと直接言えば、柚葉は来てくれないだろうと思ってさ。
 柚葉が手紙読んでる日、読み終わったら空港に来て欲しいんだ。これは、俺からの最後の頼み。柚葉なら、来てくれる……よな?
祈楯佑都より

 手紙には、そう書かれていた。もちろん佑都の字で。
 手紙を読み終わった私は、すぐに着替えて空港へ向かった。目覚めたときに頭によぎった嫌な予感が、当たってしまったような気がして。大きな不安が私の中を渦巻いて、どうしようもなかった。
 空港に着くと、私は必死で佑都を捜した。佑都はイタリア行きの飛行機のゲートの前にいた。見つけた瞬間声をかけなくなったのだけれど、何故かふと私は声をかけるのに躊躇いを覚えて。だけど意を決して、私は佑都に声をかけた。佑都、と、枯れそうな程小さな声しか出なくて。佑都は気づいてくれたのだけれど。柚葉、と、哀しそうに笑って、私の名前を呼んだ。
 ごめん、俺、もう柚葉のこと好きじゃねェんだ。ホントごめん。……別れよう。
 私の目を真っ直ぐ見て、佑都は言った。そのとき佑都は、酷く哀しそうな顔をしていて。今でも、その顔は忘れられない。脳裏に焼きついて離れない。
 言葉を終えると佑都は、私に何かを言う時間を与えずに、すぐに私に背を向けてゲートの中へ向かって歩いていった。佑都が少し右を向いて何かをしたときに、佑都の口が動いた。“好き”と。私には、そう見えた。……違うかったかもしれないけれど。
 私はすぐに追いかけようとした。だけど、何故か足が動かなくて。足になにか重りが入ってるんじゃないかってくらい。声に出そうとしても、声さえ出てくれない。佑都、って名前を叫びたいのに。佑都に向かって伸ばした右手が、ただ宙に彷徨った。
 佑都がゲートの中に消えてしまっても、私は呆然として其処に立ったままで。もう、何がなんだかわからなくて。動くことはおろか、泣くことや叫ぶことさえも出来なかった。

 佑都のことを思い出すと、更に涙が溢れてくる。涙が止まらなくなって、どうしようもなくなる。
 私は涙を流したまま、ゆっくりと立ち上がって、部屋に戻った。部屋に着くまでの間、少しでも気を緩めれば、足の力が抜けて床に座り込んでいたと思う。だって、部屋の中に入って扉を閉めた瞬間、足の力が抜けて床に座り込んでしまったから。
「佑都……っ」
 名前を呼ぶ度に、想い出が蘇ってくる。笑顔が浮かぶ、。声が聴こえる。もうどうしようもないんだ。私には、佑都しかいない。佑都がいない今、私はどうにもならないしどうにも出来ない。馬鹿げた話さ。私の中で、“祈楯佑都”という存在が大きくなりすぎた。
 不意に、携帯がけたたましく声をあげる。私は携帯を手にとり、電話だと確認すると、通話ボタンを押して電話に出た。電話の主は、友達。
「……もしもし」
『柚葉? 今何してる?』
「何って……泣いてる」
『泣いてる? 祈楯のことで?』
 うん、と私は返す。友達は呆れたようにため息を零した。まぁ無理もないだろう。六年経ってもこれなのだから。
『ねぇ柚葉、忙しくない? これから出かける予定とか、ない?』
「ない、けど」
『話、してもいい?』
「うん」
 友達はため息のあと、真剣な声になった。何があるのかはわからない。
 私は大きく深呼吸をした。なんとなく、今から友達が話すことはとても重要で、聞くのに勇気がいるような気がして。
『落ち着いて聞いてね。祈楯の、ことなんだけど。六年前、祈楯、柚葉に好きじゃなくなったって、言ったでしょ?』
「うん」
『あれ、嘘なの。祈楯はまだ柚葉が好きだった。祈楯はね、色々事情があって今イタリアにいるの。今から言うことは、全部祈楯本人が言ってたこと。よく、聞いて?』
「……う、ん」
 私は、ただ話を聞くしか出来なかった。頭がちゃんと理解出来ているかはわからない。
 佑都がいなくなってから今までで一番、佑都に会いたくなった。佑都の声が聴きたくなった。
『帰って来ねェかもしんねェ俺と付き合ってるより、俺とは別れた方がいい。柚葉は美人だし可愛いし、性格も最高だから、俺なんかよりいい男見つけられるはずだから。俺を待つより、違う奴と幸せになる方が、柚葉にとってはいいと思う。でも柚葉は、ただ理由を言って別れようって言っても、別れてくんねェと思う。だから嘘、つくしかねェよな。もう好きじゃなくなったんだって、本当は死ぬ程すっげー好きだけど』
 私の頬を、涙が伝った。友達の声を聞いて止まった涙がまた、溢れ出す。
 佑都がそんなことを思っていたなんて、わからなかった。私は本当に佑都は、私のことを好きじゃなくなったんだって思って。じゃああのとき、ゲートを通るときに口が動いたのは、やっぱり“好き”で合ってたんだ。私……どうしよう。
『ねぇ、柚葉。今から空港に行って。イタリアからの飛行機が着くところ』
「空港、に……?」
『祈楯が、帰ってくるかもしれない』
「佑都が……?」
 少し友達が、佑都のことを教えてくれて、私はわかったと言って電話を切った。急いで着替えて空港へ向かう。
 空港は相変わらず沢山の人で溢れていて、少し目的の場所へ行くのに時間がかかってしまった。
「柚葉……?」
 突然私の名前を呼ばれた。俯けていた顔を上げる。
「佑都っ!」
 其処に立っていたのは紛れもなく佑都だった。六年経って背も伸びたし大人っぽくなったし、声も低くなってる。だけどあの日の佑都の面影がしっかりと残っていて。
 私は佑都に抱きついた。今日三度目の涙が、私の頬を流れていく。私は何度も何度も佑都の名前を呼びながら、佑都に抱きついて泣いていた。溢れる感情を抑えることが出来なくて、小さい子供のように。
「どうして柚葉が此処に?」
 十五分くらいして泣き止んだ私に、佑都は訊く。
「友達が教えてくれたの。六年前のことも、今日のことも」
 佑都は、六年前より更にカッコよくなっている。六年前でも低かった声が、また一段と低くなっていて、高かった背ももっと高くなって、どう表現すればいいのかわからないくらい、カッコよくなっている。
「ごめんな、柚葉」
「謝らないで。いいの、真実を知れたから」
 私と佑都は、場所を変えた。空港から、私の家へと。
 大学生になって、私は一人暮らしを始めた。だから家には誰もいない。
「柚葉」
 私の部屋で佑都が荷物をおろすと、佑都に呼ばれた。振り返って佑都の方を見ると、突然のキス。とっても懐かしくて、久しぶりで、この上なく嬉しくて。幸せを感じた。それに、六年前よりキスが上手くなっている。……やっぱり、誰かとキスしたりしたのかな。
「俺、さ」
 キスのあと、佑都は私を抱きしめた。抱きしめて、言葉を発した。
「柚葉のこと忘れらんなかった。向こうにいる間、色んな女に声かけられたけど、全員興味なかった。だから全員断った」
「佑、都?」
「キスしたいのは、抱きしめたいのは、抱きたいのは、柚葉だけだった。一日過ぎてく度に、柚葉が好きになったし会いたくなったし声聴きたくなったし抱きしめたくなった」
 抱きしめる腕の力が強くなって、佑都の想いがひしひしと伝わってきた。私と同じだなぁって思うと、少し笑えて。私も、と小さな声で呟いてみると、佑都に聞こえたらしくて、キスをされた。とっても甘い甘いキスを。
 不安要素が全て取り払われたことによって、私は安心して足の力が抜けてしまった。だけど、しっかりと佑都が支えてくれて。
「俺、柚葉が好きすぎて泣いたんだぜ。誰も見てないとこで、だけど」
「私も泣いた。何度も、佑都のこと思い出して」
 佑都の低い声が、物凄く心地いい。きっとその低い声で好きとか愛してるとかって囁かれたら、私絶対やばい。壊れちゃいそう。
「なぁ柚葉」
「ん?」
「部屋、余ってる?」
「部屋?」
 ああ、と佑都は言う。確か一つか二つ余っていたような気がするから、私は答える。余ってると思うよ、って。
「此処住んでもいいか?」
「えっ? 佑都がっ?」
「無理か?」
「全然! 寧ろ大歓迎!」
 佑都と一緒に住めるだなんて、夢みたいだ。こんな日が来るなんて思ってもいなかった。佑都がいなくなった日から、私はずっと、もう佑都には会えないんだとばかり思っていたし。
「サンキュ」
 佑都はそう言うと、また私にキスをした。私は、いつからこんなにキス魔になったんだろう、なんてことを考える余裕が出来て。
 哀しいことがあれば、必ず嬉しいことがある。嬉しいことがあれば、必ず哀しいことがある。哀と嬉は、いつだって表裏一体なんだ。決まって順番に一つずつ私たちのもとへやってくる。だから……。次はまた哀しいことが来ると思う。どんな哀しいことかは予想もつかないけれど、きっと大きな哀しみだ。私はその哀しみに負けたくない。負けたくないから、頑張る。佑都と一緒に、一生懸命。
「愛してる、柚葉」
 耳元で囁かれて、頬に熱が集まるのを感じた。私はその顔を隠すように、佑都にぎゅっと抱きついた。佑都はとっても大きくて、広い背中は私の腕じゃ回りきらないし、高い背は私の身長じゃ全然足りない。
 成長した佑都に私が感じたものは、“好き”じゃなくて“愛しい”だった。佑都の全てが愛おしくて、もう二度と佑都と離れたくはないと。もう二度と佑都の手を離したくないと。そう思った。
「佑都、ありがとう」
 六年前に大切な人を失ってから、色んなことに気づかされた。大切だと思っているものの真の大切さもその一つ。
 かけがえのない、とても大切な人を、私はまた手にした。今度はもう離さないように、佑都の手をただ、ぎゅっと握り締めて。いつも、いつでも。

 ――四度目のキスは、私と佑都のファーストキスのときのような、そんな味がした。


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written by 沖田さくら

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